私は若い頃インドにいっておりました。ガンディー翁のアシュラムに奇遇しておりましたが、大勢集まった中でガンディー翁はお話をされます。私は言葉がわかりませんでしたが、簡単なことはどうにか理解できました。
それはお祈りをしなさいということでした。「お祈りをしなさい。お祈りをすることが一番よいことです」これをガンディー翁は繰り返し話されます。それが翁の独立運動でした。私もガンディー翁がお話をされる前に太鼓を打ってお祈りをしました。それを見てガンディー翁も喜びます。集まった人達も何かわからないながら、日本人の打つ太鼓と大きな声でお祈りするのをみんな侮らずに聞いてくれました。
そうして誰もがお祈りを大切にしました。
「お祈りをしなさい」これがガンディー翁の政治演説であり、独立運動でした。みんなも翁の言葉に従ってお祈りをしました。翁は何処に行っても、例え汽車の中でも、日に三度のお祈りは欠かしたことがありません。
ガンディー翁だけでなく、みんなも一緒にお祈りをしている姿を見て、私はよくよくこれはありがたいことだと思いました。
二〇世紀における科学の発達はめざましいものがあります。この時代に革命を志して、しかも民衆を率いて行くのに「お祈りをしなさい。それが正しい運動だ」ということは大変理解しにくいことです。
誰も考えないことでしょう。しかし。さすがにガンディー翁はこの祈りを独立運動の根本として、あの偉大な成功を一滴の血も流さずにおさめました。
たとえ成功しないにしても、これはよいことです。しかし。この祈りの力によって、あの平和革命は達成されたのです。
(昭和四〇年頃)
マハトマ・ガンジー翁