輿 船 田 中 書
防衛庁の目的は日本国土と日本民族とを戦争の惨禍から免れしめんが為である。
アメリカ軍隊の駐留及び英軍事基地設定も亦此目的に外ならないものと云はれる。
此の如き軍事的目的は世界各国何れも長い期間採用して来た常套手段であつた、併ら今日に於ては其等の軍備戦争機関は再検討を要する時となり、明日の安全と平和とを護らんが為には別の方便をエ夫せねばならなくなつた。
戦争の原因は人の心である、国際間は相互に不信と猜疑と対立に憎悪と恐怖との心が積み重なれば結句国際的戦争行為をひき起す。
日米安全保障条約は正しく戦争誘発の條約である。「在日米軍は一又は二以上の外国による教唆は干渉に由て日本国内に引起されたる大規模の内乱騒擾の鎮圧、外部からの武力攻撃に対する日本の安全の為に使用する」。
近い将来に於て何等大規模の内乱及び外部の攻撃を予想されないにも係らず、日本国内にアメリカ軍の駐留を請ひ、一方的な軍備を強化する事は国内的には内乱騒擾を、国際的には徒に外部の侵略を想定して内外ともに不安と混乱とを増長せしむるに役立つのみである。
行政協定は米国の陸海陸三軍の基地を此狭隘なる日本国土の内外に無制限に無数に設置し、其費用は日米折半に負担し、交通々信電力を侵略的に米国に使用せしむる協定である。
日本国は開闢已来斯る屈辱を被らざりし歴史的尊厳、日本の神聖を信じて来た民族であつた。然るに此協定に由て、国土の神聖は侮辱せられ、農民の農園、漁民の水域を侵略して彼等の生活を破壊したるものがアメリカの軍事基地である。但だ彼等民衆の生活が破壊せらるゝのみならず、社会道徳習慣は踏み躙られ、婦人は堕落させられ、男子は軽賤せられ、其害毒は遂に忍び難きに到つて無辜の農民漁民の苦悩の叫び声は全国津々にたかまりつゝある。
貴官今にして猶且耳を掩ふて農民漁民の苦悩の叫び声を聞くことなくして、世界に比類なきアメリカの飽くこと無き侵略を助長せしむるならば、結句日米両国間相互信頼の感情を喪はしめ、却て両国相互に嫉視反目の禍因を作るであらう。
貴官は少くとも日本民族の苦悩の叫びを告げて.アメリカの横暴貪婪を阻止して基地の返還を強剛に要求することが貴官の天職である。斉く近代国家の苦悩とする所は専ら軍備負担の加重である、されば軍縮会議提案の要請も亦此にある。然るに日本国に於てはアメリカの強制に由て、ひそかに不戦憲法の網を潜つて作り出されたる軍備を防衛庁と称しておる。
已来日々甚大なる国税の濫費を行ひ、防衛の名目を以て合法的に日本民族の生産を掠奪する強盗団と化したるかと想はしむるものがある。
真実に日本国土と日本民族と、内には内乱騒擾、外には外国の侵略を免れしめんが為の防衛は、防衛庁の廃止であり貴官の退職を先決条件とする。
昭和卅一年太才丙申七月八日
日本山妙法寺 沙門 藤 井 日 達