進上 内閣総理大臣鳩山一郎殿書

進上 内閣総理大臣鳩山一郎殿書 昭和卅一年太才丙申七月八日

貴官は曾て在野時代に、日本に再武装を強要せる米国のダレスに親書を贈て、日本国の新憲法第九条を改訂して再軍備の條項となし、自衛軍を卅萬に増強せんとする政策を説き、卑劣にもダレスの愛顧を買はんとしたる諂曲の噂を開いた。是れ人民の向ふ所を誤らしめ、国家をして再び危機に陥し入れるものである。
貴官が首相の職に在て最近議会答弁の中に、非武装平和憲法を採用することは出来ないと云った。日本国の独立と平和の維持を只管軍事力に依存するが故に、卑劣にも外国軍隊の駐留を請ひ、神聖なる日本国土にアメリカ軍隊の無制限なる軍事基地設定を認めて之に協力せざるを得なくなつた。
軍事力に由る獨立と平和の保護は昨日迄は萬国ともに国際間の常套手段として採用された。然し既に今日に於ては時代おくれの火遊びとなつた。アメリカの外交政策が軍事面に偏重するが故に、欧洲を始め到る処に於て排斥されるのみならず、アメリカ本国に於ても漸く厳しく批判さるゝに至つた。 軍事力の採用は明日に於ては世界平和の為に、絶望的な時代遅れの廃品となるべきものである。
恰かも鳩山首相の時代おくれと同様に、我が国が、東洋平和の安定勢力と成ることは必ずしも軍備を必要としない。再軍備に要する費用は寧ろ国民再教育に施して、真理把持、護持正法の訓練に依て、平和の使徒となつて、世界平和、文明指導の上に眞の勇者の力量を発揮すべきである。これこそ再び戦争をしない我が日本民族の雄々しくも起つて世界に示す信義である。
是に反して妄りに軍事基地を拡張し、軍事力増強政策を採るならば、他国他民族に恐怖を興へ不信と疑惑を生ぜしむるのみならず。却て自界反逆難を起し、他国侵逼難を招き、国を亡ぼすに到るであろう。これ立正安国論の予言であ。国家民族の前途を憂ふるが故に敢て進言する。
貴官は須らく軍事力増強の、弱者の政見を改めて、諸国家諸民族の正義心、慈悲心を信頼して援助と尊敬との風潮を創り出さんとする誠実なる努力をつくすべきである。
いかなる主義の民族も妻子を慈愛せざる者は無い。妻子を慈愛する心は人類普遍のものであり、古今不変のものである。此自他相互の慈愛心を育てゝ行くことのみが我日本国の平和国家建設の大方針であり、世界人類の終局の目的である。是が為に国内的には農民漁民の怨嗟の焦点たるアメリカ軍の軍事基地を撤廃し、国際的には一方的軍備に加盟することを破棄すべきである。

昭和卅一年太才丙申七月八日  日本山妙法寺 沙門  藤 井 日 達

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