現世安穏の証文

現世安穏の証文

もし人類が生き残らんと欲るならば、先ず須らく科学文明を放棄して、別途の文明を創造せねばならぬ。其れが即ち精神文明の展開である。精神文明は宗教文明である。宗教文明は仏教文明である。

仏教文明は三帰五戒を教える。三帰とは、遠くは、天地より、近くは人間社会に対しての念を起こさしめ、礼拝し供養せしめる。其の対象を抽象して仏法僧の三宝とする。もし人として此れを尊敬しない時に、破壊が起こり戦争が起こる。五戒の第一は不殺生戒である。即ち人類相互の殺し合いを絶対に禁制せんとするものである。科学文明の脅威、核兵器の恐怖と云うが如き現代の恐怖は、只此の不殺生戒の大破壊の厳罰である。現代に生き残る道を探すならば、只仏教の五戒の中の第一不殺生戒の功徳を信じて、此れを各各持つ事である。

何故悪い事をしてはいけないのか、何故善い事をせねばならないのか、と云う疑問を解決せんが為に、仏法には因果の正理を説く。悪行の原因を為せば、苦痛の果報が巡って来る。善業の原因を為せば、安楽の果報が巡って来る。人は皆悉く苦痛を逃れ安楽を求める。此れが自然的要求である。然らば善業の原因を行わねばならない。此の規則は歴然として変更する事は出来ない。悪行を縦(ほしいまま)にしながら、しかも其の結果として安楽を得んと望む、此れを迷信と云う。すべて悪業を行う者は、必ず苦痛の結果が来るとは思わない。此れを因果撥無の邪見と云う。

因果の正理を信ずる時、核兵器は勿論、一切の殺人破壊の道具となる軍備を完全に廃棄し、戦争手段を放棄すべきである。其の時初めて仏教の不殺生戒が受持される。不殺生戒を受持する時に、初めて仏教信徒となる。天下万民みな仏教信徒となった時に、真の世界平和が実現する。

妙法蓮華経如来寿量品に曰く「衆生効尽きて、大火に焼かるると見る時も、我が此の土は安穏にして、天人常に充満せり」

日蓮大聖人の如説修行抄に曰く「天下万民 諸乗一仏乗となって、妙法独り繁昌せん時、万民一同に、南無妙法蓮華経と唱へ奉らば、吹く風枝を鳴らさず、雨壌を砕かず。代は義農の世となりて、今生には不詳の災難を払ひ、長生の術を得、人法共に、不老不死の理顕われん時を、各各御覧ぜよ。現世安穏の証文、疑いあるべからざるものなり。」

仏教の不殺生戒を持つ事は、現世安穏の証文である。仏教の不殺生戒を破る時は、遂に人類全滅の代難を招く、科学文明は、人類の為すべからず大悪業として殺人破壊を禁制する事を知らなかった。科学の開発には、倫理性が無い。科学の開発する真理には、善悪の区別が無い。只数学的な計算が有るだけである。計算が合えば、如何なる殺人破壊も行われる。いわゆる反宗教の理論・技術を開発して止まる所を知らざる結果が、すなわち核兵器の恐怖と云う現代の最も救い難き状況となった。人類全滅の恐怖は、神の怒りでもなく。天から下った災難でもない。科学文明の迷信から現れた悲劇である。

(昭和五十五年九月二十一日 ミルトンキーンズ仏舎利塔落慶法要)

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